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2014年3月29日 (土)

第6回研究集会のご報告

「宗教と社会」学会研究プロジェクト「戦争死者慰霊の関与と継承」研究会

・國學院大學研究開発推進センター研究事業「昭和前期における神道・国学と社会」

2014年3月16日14:00-18:00

國學院大學学術メディアセンター棟会議室06

 

報告者:

鈴木卓(米デニソン大学)「記憶創りの旅路-民間人引揚者と戦死者遺児にとっての北マリアナ諸島」

西村明(東京大学)「戦地慰霊・遺骨収集をめぐるパフォーマティヴ・メモリー―金谷安夫氏の8ミリ作品「姿なき墓標」(テニアン、昭和51年)、「草むす屍」(サイパン、昭和59年)の上映とともに

コメンテーター:中山郁(國學院大學)

司会:粟津賢太(南山大学)

 

 鈴木氏の報告では、2013年度の国際交流基金日本研究フェローとして東京大学への滞在期間に、沖縄・滋賀・北マリアナ連邦にて行った調査成果が紹介された。

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 まず、沖縄ではサイパンやテニアンなどの北マリアナ諸島からの帰還者たちが、現地への巡拝を通じてどのような集団的記憶を形成しているかについて、5点のポイントに整理した。当日配布のレジュメに沿いながら、多少翻案して紹介すると、1.戦争による死者の記憶の共有が帰還者の記憶の共同性を担保していること、2.現地への慰霊墓参が先祖崇拝の一環として行われていること、3.引き上げ後の沖縄社会での蔑視といった疎外の経験が、南洋へのノスタルジアと集団意識(時に外の世界を知る優越感)の形成の基礎にあること、4.墓参を通じて共同性が維持・強化されていることと、集団的記憶の形成に社会経済的要因も影響していること、5.世代間継承については、各家レベルでは若年世代の意識の希薄化が見られるなど個別化の傾向があるのに対して、帰還者会としては記憶の継承事業に着手するなど公的なレベルでは拡散化の傾向が見られること、の5点である。

 

 他方で、滋賀県遺族会の遺児たちの慰霊巡拝の事例についても、5点のポイントが示された。1.長男・跡継ぎとして恒例の母の代理としての参加意識など、イエ制度の中で慰霊巡拝の意味が捉えられていること、2.同時に、現地での慰霊祭などの呼びかけで家族にとどまらず故郷の近況を死者に報告するなど、地域、市町村の代表としての意識も表れていること、3.経済的状況などから巡拝が希少な海外旅行の機会とみなされていること、4.若年時の経済的苦労や就職差別などに起因する鬱屈した心情など共通した境遇によって巡拝参加者の遺児同士の一体感がもたらされていること、5.他方で、旅程の制約などもあって現地住民との過去と現在に関する無関心や接触の希薄さが見られること、5.物理的距離の接近に伴って、心理的距離感の変化や現地での霊的体験などが見られること、などが提示された。

 

 最後に、今後の議論の精緻化の上で有用な理論的枠組みとして、A.集合的行為としての記憶・想起、B.トランスナショナルな記憶の形成、C.集団による「旅・移動」としての慰霊巡拝が生成・保持する集団的記憶と記憶の共同体のアイデンティティの諸点について、紹介・説明がなされた。

 

 

 続いて、西村が報告を行った。表題に掲げたパフォーマティヴ・メモリー(行為遂行的記憶)という概念は、そもそも報告者が2006年の著書で慰霊の分析概念として提示した「フルイ」を翻訳・翻案し理論的に説明するために提示したものであった。過去の事実のたんなる確認や保持に止まらず、未来への志向性を有し,生者を歴史の主体として未来に向けた行為(問題の解決プログラム)へと駆り立て,新たな歴史の地平へと参入させるダイナミックな働きを持つということが同書における当初の意味合いであったが、記憶行為そのものが演じるパフォーマンス性にも注目することで概念の射程が拡がり、戦地慰霊、遺骨収集、仏像造立、橋の建設、映像制作・インターネット配信など、慰霊現象に付随するさまざまな行為実践への視野が開かれると指摘した。とくに映像制作については、『中外日報』の慰霊関連記事の集成結果から、1970年代に新宗教教団や仏教宗派等による映像記録の試みが散見され、こうした資料発掘が今後の課題になると論じた。

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 その後、映像制作の例として、テニアン戦の生還者である金谷安夫氏の8ミリ映像について、略歴や制作にいたる経緯などとともに紹介し、数本ある8ミリ、ビデオ作品の中から、1976年(昭和51)にテニアン島で撮影された自伝的ドキュメンタリー『姿なき墓標』と、1984年にサイパンでの厚生省遺骨収集事業に参加した際に撮影された『草むす屍』を上映した。

 

 これらの報告の後、コメンテーターの中山氏より、いくつかの疑問点・論点が提示された。たとえば、遺骨収集・戦地慰霊関連の映像・画像資料のアーカイブ化を早急に試みなければ今後残らない可能性があること。パフォーマティブに慰霊を繰り返す人と一回の実施で満足する人との差異があり、前者は慰霊の新たな組織化などでキーマンとなっていく傾向があること。記憶の継承といった際に変らず維持される場合と意味づけなどが変容する場合があるが、後者ではそうした意味づけの正当性を何が担保しているのかということ。集合的記憶には下から積み上げられていく側面と、上からの枠が与えられる側面がありうるが、鈴木報告の事例についてはどうかという点。慰霊団の出発に際して「レジャーではない」という団長の注意喚起(鈴木報告)は、むしろレジャー化している現状があるはずだが、しかしグアムやサイパンなどの場合と、パプアニューギニアやミャンマーでの場合には事情が異なる。観光化の度合いの地域的偏差を考慮する必要性、などである。

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 その後、司会の粟津氏より論点整理が行われたのち、会場から多くの質疑が行われ、報告者との間で活発な議論が展開された。今回はさまざまなジャンルから慰霊に関心を寄せる20名ほどの参加者を得、懇親会の場でも盛んに意見交換がなされた。

 主催者としても、今後も継続的に研究会を開催していくことの必要性が感じられた盛況ぶりであった。

                                     (西村明)

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